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腎臓の数字が悪い 〜「腎機能」とは(CKD 1)

「なんか、腎臓が悪いって言われた」 〜腎機能低下?

 

健診やドックで「腎臓の数字が悪いっていわれた」と相談されることがしばしばあります。

しかし、「腎臓の数字が悪い」といっても、何をどうすればいいのかとお困りのことが多いようです。今回は、そもそも「腎臓の数字」(腎機能)とは何を示すのか、それが「悪い」(低下)とはどういうことなのかご紹介しようと思います。

 

静かな働き者、腎臓 〜おしっこを作るだけではない(腎機能と腎不全症状)

 

腎臓の働き(腎機能)

腎臓は、肺(呼吸)や心臓(鼓動)のように直接的に動きや働きを私たちに感じさせることはなく、飲酒に絡んで肝臓がするように私たちに話題を提供することも多くありません。尿をつくることは有名かもしれませんが、排尿に絡んで意識されることにかけては膀胱を始めとする尿路や前立腺に及びません。腎臓は自身も無口であれば話題にされることも少ない、すこし寂しげな臓器。しかし、実は腎臓は全身の臓器と絶えず(静かに)コミュニケーションを取りながら、体内の様々な調整を行っているとても忙しい臓器なのです。

 

腎臓には、おおまかに以下のような働きがあります。いずれも人間が生物進化の過程で環境に順応するために獲得してきた、生命維持に必要な機能です

① 老廃物の排泄

② 水分量の調節

③ 電解質(イオン)の調節

④ 酸性ーアルカリ性のバランス調整

⑤ カルシウム調整(ビタミンD)

⑥ 赤血球の産生

以下に、それぞれを簡単にご紹介します。

 

老廃物の排泄(尿)

われわれは外部から栄養源をとりいれて体内で代謝することで、体の組織を維持しエネルギーを作りだしています。その過程で、どうしても老廃物(ゴミ)ができてしまいます。その老廃物が体内に蓄積してしまうと「尿毒症」という状態になり、体の代謝がうまく行えなくなってしまいます。そのため、老廃物の排泄は体内のバランス維持には欠かせず、腎臓が尿をつくることでそれを可能にしているのです。

尿毒症では倦怠感、食欲低下、不眠、かゆみなど多様な症状が見られます。

水分量の調節(血圧)

わたしたちの体重の60%は水が占めています(赤ちゃんは80%)。水の中に細胞が浮かんでいて、水を介して物質(情報)がやり取りされていると言ってもよいかもしれません。また、血管内の水分量は血圧の構成要素であり、血圧の調整が生命維持に必要であることは以前に紹介しました(「血圧」と「高血圧症」 〜血圧が上がる (高血圧①))。腎臓では大量の水がろ過され(1日に約150L)、そのほとんどを再吸収することで尿の濃さを調節しています。これは、人間は老廃物を尿という液体のかたちで排泄する必要があるため、水分の喪失を最小限ですませる腎臓の知恵にも思えます。

腎臓機能が低下し尿の濃縮力が弱まると、薄い尿が頻回に出るようになります。また、ろ過量そのものが低下すると余分な水分を排泄できなくなり血圧上昇やむくみが現れることになります。

 

電解質(イオン)の調節

電解質(イオン)とは水に溶けると電気を通す物質のことで、栄養素としてはミネラルに分類されます。ナトリウム、カリウムなど様々な電解質の特徴に応じて役割があるのですが、その量を調節するのも腎臓の仕事です。例えば、ナトリウムは体内に水分を保持する役割を果たしています(血圧)。カリウムは神経の伝達や筋肉(特に心臓)の収縮をつかさどります。熱中症のときにイオン入り飲料を勧められる理由も電解質の欠乏による障害を防ぐためです。

特にカリウムの排泄ができなくなり血中のカリウム濃度が上昇すると致死性不整脈を起こす可能性があり、突然死の原因にもなります。

酸性ーアルカリ性のバランス調整(酸塩基平衡)

血中の酵素やホルモンはph7.4の環境下でうまく働くようになっています。そのため、血液は弱アルカリ性(ph 7.4)に維持されることが重要です。体内で栄養素を代謝するときに大量の酸が作られるのですが、腎臓は尿へ酸を排泄しアルカリを再生産することでバランスを維持しています。肺は呼気中に大量の酸(二酸化炭素)を捨てることが可能ですが、気体でない酸は呼吸では捨てることができません。また腎臓は呼吸のようにひっきりなしに大量の尿を作るわけにはいきません(脱水になる)。そこで、腎臓は酸を中和するアルカリ(重炭酸イオン)を再生産することで貢献しています。

したがって、腎機能低下で体液が酸性に傾くと体内での酵素やホルモンの働きが低下して生命維持のための代謝に異常が生じることになります。

 

カルシウムの調整(ビタミンDの活性化)

腎臓は皮膚、肝臓と協力して体内のカルシウム濃度を維持しています。皮膚に紫外線があたるとビタミンDが産生されます。そのビタミンDは肝臓、腎臓で活性化されると、腸からのカルシウム吸収効率を上昇させ血中のカルシウム濃度が維持されます。カルシウムは主に骨に貯蔵され、人間が重力に抗って活動するための支えともなります。

したがって、腎機能低下例ではカルシウム不足から骨がもろくなり骨折のリスクが高まります。また、ビタミンDの低下そのものが慢性腎不全患者の死亡リスクの上昇につながるというデータもあります。

赤血球の産生

腎臓はエリスロポエチンというホルモンをつくっています。エリスロポエチンは骨髄での赤血球産生を刺激して必要量の赤血球を作ることに貢献しています。

エリスロポエチンの産生が低下すると赤血球数が低下し、貧血症状(倦怠感、労作時の息切れなど)が出現します。これを「腎性貧血」といいます。

 

腎機能低下 〜クレアチニンとeGFR

腎臓には様々な機能があり、腎機能低下状態ではさまざまの問題が生じる可能性があることを紹介しました。

では、何をもって「腎臓の数字が悪い(腎機能低下)」と判断するのでしょうか。一般的には血液検査のクレアチニン(mg/dL)値及び、クレアチニン値から計算して導き出される推算糸球体濾過量(eGFR)を用います。eGFRは腎臓が1分間にろ過する血液量を示す数値です(年齢、性別を加味)が、eGFRが60未満で腎機能低下の恐れがあるとされます。

 

血中のクレアチニン値を用いたeGFRの計算式(18歳以上)

男性 eGFRcreat(mL/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094  × 年齢-0.287

女性 eGFRcreat(mL/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094  × 年齢-0.287 × 0.739

 

CKD(慢性腎臓病)

腎臓の数字が悪い状態(eGFRが60未満)が慢性的に続くと慢性腎臓病(CKD)と診断されます。

CKDの診断やステージ分類、重症度分類などについては改めてご紹介したいとおもいます。(もはや国民病?慢性腎臓病(CKD) 〜CKD 2)

 

まとめ

・ 腎臓は静かな働きものであり、体内のさまざまなバランス調整を行っている。

・ ゆえに腎機能が低下すると多様な症状が出現し、進行すると生命維持に必要な働きが障害される。

・ 腎機能は血中のクレアチニン値とそこから計算されるeGFR(推算糸球体濾過量)で評価される。

・ eGFRが60未満で腎機能低下の恐れがあると考える。

 

 

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