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「血圧」と「高血圧症」 〜血圧が上がる (高血圧①)

「家の血圧どうですか」、「血圧はかってみましょか」…

 

よく考えると、クリニックの診療で最も口にする言葉のひとつである「血圧」。

なぜ医者はこうも血圧にうるさいのか。

そもそも、なんのために「圧」が必要で、それが「高い」ことに目くじらを立てるのか。

改めて考えをまとめてみました。

 

血圧は必要、ある程度の高さも必要

 

血液を構成する約半分は水分で、他に血球成分(赤血球や白血球)やタンパク質、脂質、糖質、ミネラルなどが含まれます。この血液が動脈を通じて全身にいきわたることで栄養分や酸素が臓器(の細胞)に到達し、複雑な生命が維持されるのです。そして、血管内に十分な圧がかかることがその目的達成の必要条件となります。

血圧は一般的には以下の式で求められます。

【 血圧 = 心拍出量 X 末梢血管抵抗 】

     *心拍出量:心臓から拍出される血液の量

*末梢血管抵抗:手足の血管での血液の流れにくさ

これは、水道に繋いだホースをイメージするとよくわかります。「心拍出量」は水道栓の開閉による水の量の調整に、「末梢血管抵抗」はホースの太さや材質、ホースを強く握って径を小さくすることにあたります。このことから、しっかりと心臓から血液が押し出されて末梢血管抵抗に負けないだけの高い圧が血管内にかかるのが、血液を全身にめぐらせるためには重要なことだとわかります。ちなみに「上の血圧(最高血圧または収縮期血圧)」とは心臓の収縮により最も上昇したタイミングでの血圧、「下の血圧(最低血圧または拡張期血圧)」は心臓が次の収縮に備えて拡張することで最も下降したタイミングでの血圧のことです。

 

では、血圧が下がる、というのはどういう状況でしょうか。心臓の疾患で心筋が弱ってしまったり、ホルモンのバランス異常や脳神経系からの司令が心筋に届かないような状態では筋肉ポンプとしての心臓の役割が果たせません(心拍出量の減少)。また、半分が水分である血液量が減ってしまうような大量出血や脱水状態では心臓が元気でも空打ちになってしまいます(心拍出量の減少)。重症感染症や副交感神経バランスの異常では、末梢の血管がゆるんでしまうことで十分な末梢血管抵抗がつくれない状態に陥ります(入浴や飲酒直後でも同様)。血圧が下がると脳を始めとする重要な臓器への血流が減少し、ふらつき、眠気から始まって、重篤な場合には昏睡や命の危険にまで発展することもあります。一定程度の血圧を保つことが生命維持にとって必要なのです。

では、ことさらに血圧を上げることは我々にとってどういう意味があるのでしょうか。われわれ人間は二足歩行を始めて、頭(=脳)を心臓よりずっと高いところに持ってくることを選択しました。天敵や獲物を認め、あわてて立ち上がった時に脳への血流が保てるように、瞬時に血圧を高めるありとあらゆる方法(脳神経系、多様なホルモン系)を磨き上げてきたのです。血圧を上げるのが遅い者は生き残ることができなかったでしょう。

「血圧の維持」そして必要時の「高血圧」。これはいずれも人間が生き残るために発達させてきた必要な能力でした。

 

高血圧「症」 〜生活習慣病として

 

それが、いまや「高血圧症」として生活習慣病の代表選手となってしまいました。生き延びるために必要であった血圧がどうしてこのように問題となってしまうのでしょうか。

高血圧(本態性高血圧)は遺伝的因子に加えて生活習慣などの環境的因子が絡んだ複雑な病態であり、環境因子には以下のようなものが考えられます。

主な環境因子(生活習慣)

  • 過剰な食塩摂取
  • 肥満
  • 過剰飲酒
  • 精神的ストレス
  • 自律神経の調節異常
  • 運動不足
  • 野菜や果物(カリウムなどのミネラル)不足
  • 喫煙

本来の血圧維持能力に加え、食塩を多用する(できるようになった)食習慣や喫煙習慣、現代社会生活のストレスなど生活習慣の変化による血圧上昇要因が相まって血管は持続的に高い血圧にさらされることになります。特に、食塩の過剰摂取は体内の水分貯留(心拍出量の増加)と直接的な交感神経刺激による血管収縮(末梢血管抵抗の上昇)の双方に影響すると考えられており、特に日本人の高血圧の重要な因子となっています。血圧上昇は生存のための重要な戦略だったはずですが、持続する高血圧は血管へのストレスとして動脈硬化から血管合併症を引き起こすことがわかり、今では現代人の死因に大きく影響を与える存在であるとの認識に至るまでになりました(グラフ参照)。

 

高血圧と動脈硬化 〜「死因」に影響するようになった血圧上昇

 

持続する高血圧は、血管内側を裏打ちするように存在する内皮細胞にストレスをかけ続け、内皮細胞機能障害を引き起こします。内皮細胞は血管のしなやかさを保つ働きを持っており、これが傷害されることが動脈硬化の第一歩となります。さらに内皮細胞が傷害される部位では接着因子が活性化されて細胞成分があたかも「かさぶた」のように血管内皮に接着します。ここに高コレステロールや血管石灰化などの要因がからまってプラーク形成がされると、動脈が狭窄していきます。心臓や脳の血管でプラークによる狭窄や閉塞がすすんだり、プラークが破綻して血栓が飛んで更に末梢の血管が閉塞すると狭心症、心筋梗塞、脳梗塞といった重大な病態に至ることになります。こうして高血圧症は現代日本人の死因構成に強く影響する存在となってしまったのです。

 

 

 

日常用語でもある「血圧」はそもそもどういうもので何のためにあるのか、そして血圧を上げることは本来は必要なことであったのに、現代では日本人の死因に影響する病態となってしまったということをご紹介しました。いまや病気となってしまった血圧上昇が、現在の標準的医療ではどのように捉えられ、どうのように治療することになっているのかを次回以降ご紹介したいと思います。

 

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