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2024.11.17 糖尿病(高血糖)のなにが悪いのか 〜痛くも痒くもない?
痛くも痒くもない?
糖尿病や高血圧を代表とする生活習慣病は初期段階では明確な症状はほとんどありません。そのため、「痛くも痒くもない」「なんともない」として早期の治療介入(=合併症予防)を渋る患者さんは少なくありません。そこで、今回は糖尿病について、血糖が高いことのなにが問題となるのか、簡単にご紹介したいと思います。
血糖があがるとき、体の中でなにが起きているのか?
食事で摂取された炭水化物は胃や腸での消化・吸収をへて血液中に入り、主に肝臓でブドウ糖(グルコース)に変換されます。このブドウ糖が全身の細胞に取り込まれてエネルギー源となり(インスリンの働きが必要)、私たちは活動することができます。しかし、ブドウ糖を必要以上にとり続けると、細胞に取り込まれずに余ったブドウ糖が血液中に漂います。これが血糖値の上昇としてあらわれるのです。また、インスリンの分泌が枯渇している場合(I型糖尿病)や別の疾患によりインスリンの働きが弱い場合にも、細胞にブドウ糖が取り込まれにくいため血糖値が上昇します。
余ったブドウ糖(血糖)は時間とともに細胞で消費されますが、消費できない分は尿中に排泄されます。これが尿糖としてあらわれ、「糖尿病」という疾患名の由来となっています。
また、血糖管理の指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は「糖化ヘモグロビン」とも呼ばれ、血液中でブドウ糖にさらされ続けたヘモグロビン(赤血球蛋白)のうち、糖がくっついたものの割合(%)を見ています。
余ったブドウ糖(高血糖)が悪さをする
ヒトの歴史において数百万年の間、ブドウ糖は不足することが常であったと考えられます。その証拠として、血糖を上昇させる(維持する)機能は複数用意されているのに、血糖を下げる機能はインスリンにしか与えられていません。飽食の時代となった現代においてはこのことが仇となっており、非常に皮肉なことに思えます。高血糖に伴う問題には大きく2つ、慢性合併症と急性合併症(高血糖緊急症)があります。
慢性合併症
細胞で使うことができずに余ったブドウ糖は血中を漂います(高血糖)。血中のブドウ糖濃度上昇は血液の粘稠度が高くなるということを意味します(ドロドロ血液)。こうして、粘稠度が高い血液によって持続的に血管の壁にストレスがかかり続けると、動脈の壁が固くなり動脈硬化を引き起こします。糖尿病による血管障害(慢性合併症)には微小血管障害と大血管障害があります。特に、微小血管障害は「糖尿病3大合併症」とも呼ばれる糖尿病に特徴的な病態で、神経障害、網膜症、腎症は生活の質に大きく関わる問題となります。
糖尿病患者さんには手足のしびれや便通や排尿の異常など、一見して糖尿病と関係のない症状を訴える方が多くいます。これは末梢神経を支配する微小血管の障害があると考えられ、改善しにくい問題です。糖尿病網膜症は成人の失明原因の上位に位置し、深刻な合併症です。目の見えにくさや視野の異常を感じたらすぐに主治医に相談しましょう。糖尿病性腎症は血液透析導入の原因第一位となっており、尿蛋白の出現には気をつけなければなりません。糖尿病の方は必ず定期的に尿検査をしましょう。
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)や脳梗塞といった大血管障害は糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症など他の生活習慣病にも見られる病態です。これらは死因に直接関係するためもっとも注意すべき合併症です。血糖管理はもちろん、動脈硬化の進展がないか心電図や血管年齢検査などで定期的に確認しましょう。
また、足壊疽による足指の切断や下肢切断といった痛ましい例は、糖尿病治療の進歩に伴う血糖管理の改善により減少傾向ではあります。ただ、寝たきりの方などで褥瘡(床ずれ)や足白癬(水虫)がある場合は、末梢神経障害のため自覚症状がない(痛くて痒くても感じられない!)ので本人も気づかない間に悪化しやすいのです。そのため、糖尿病患者さんは足の状態を定期的に観察する必要があります。
急性合併症(高血糖緊急症)
急性合併症(高血糖緊急症)は、異常な高血糖そのものによる病態です。糖尿病性ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群は急性代謝障害であり、意識障害から命に関わる緊急事態なのでただちに治療介入を必要とします。
糖尿病性ケトアシドーシスでは、インスリン作用が欠乏し急激な高血糖をきたします。インスリンが枯渇するI型糖尿病の発症に気づかない場合や、インスリン注射を急に中断した場合、また、なんらかの原因で急激に高血糖になった場合などが誘引となります。インスリンが作用しないために細胞内に取り込まれず余ったブドウ糖により血糖値が急上昇し、脱水、電解質(ミネラル)異常などが生じます。また、ブドウ糖をエネルギー源として使えないため代わりに脂肪を分解してエネルーギー源とするのですが、この際にケトン体が生じて血液が酸性(アシドーシス)に傾きます。強い口渇をともなう脱水となり、電解質異常やアシドーシスでは神経や筋肉の異常が生じ、最終的には脳機能障害(意識障害・昏睡)にいたり致命的となるため、緊急対応が必要な病態です。
高血糖高浸透圧症候群は、著しい高血糖と脱水により血液が極端に濃縮していまいます。2型糖尿病の高齢者における感染症、利尿薬の使用、食事量の減少や高カロリー輸液(入院中)などが原因となります。最低限のインスリンは分泌されているので、ケトアシドーシスとは異なり脂肪分解によるアシドーシスは軽度です。しかし、極度の脱水と高血糖のため死亡率は高く予後は不良です。脱水と血糖上昇で血液の浸透圧が上昇(血液が濃くなる)し、意識障害・昏睡から致命的となります。高齢者ではもともと体水分量が少なく腎機能が低下している例も多いため水・電解質バランスが崩れやすい状態です。また喉の渇きも感じにくくなっており、発見が遅れて重篤な状態になることが多く早急な診断・治療が必要です。
まとめ
・ 初期の糖尿病は「痛くも痒くもない」ので治療介入をためらう患者さんが多い。
・ 糖尿病の慢性合併症には微小血管障害と大血管障害がある。
・ 微小血管障害(神経障害・網膜症・腎症)は生活の質が大きく低下する(失明、血液透析)。
・ 大血管障害(心筋梗塞、脳梗塞など)は糖尿病患者の死因の主なものである。
・ 糖尿病の急性合併症は緊急対応が必要な致命的な病態である(糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)。
・ 進行した糖尿病は「痛くも痒くもない」のではなく「痛くても痒くても感じられない」状態にある。