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2024.05.16 高血圧治療 〜目標とできること (高血圧②)
「血圧が高い」と言われたら 〜治療目標は“押しつけ”じゃありません
「健診で血圧が高いって言われて…」
「うちにある血圧計で測ってみたら高くて心配で…」
——そんなふうに来院される方がたくさんおられます。
でも、「高い」って、何を基準にそう言ってるの?
そして、どこまで下げないといけないの? その“目標”は誰がどう決めるの?
今日はそんな疑問にお答えしながら、高血圧治療の“ゴール”とは何かを一緒に考えてみましょう。
血圧の“目標値”は、あくまで「あなたにとっての安心の目安」
血圧の高さを判断する基準には、「高血圧治療ガイドライン」という医療者の共通ルールがあります。
ここでは血圧を分類して、年齢や体の状態に応じて目指す“目標値”が定められています(2024年現在、最新は2019年版JSHガイドライン)。
でも、本当に大切なのは、血圧の数字そのものじゃなくて——
脳卒中や心筋梗塞などの重い病気を防ぐこと。
これが本当の“ゴール”です。
だから治療の目標も、「その人がどれだけリスクを持っているか」によって変わります。
リスクの要因は、たとえば:
-
年齢・性別
-
喫煙や肥満
-
糖尿病・脂質異常症などの他の病気
-
脳卒中や心筋梗塞の既往 など
つまり、“みんなが同じ数字を目指す”わけではないのです。
よくある疑問①
「そんなに下げて大丈夫なんですか?」
よく聞かれます。たしかに、昔よりも治療目標はやや厳しく(=低めに)なってきています。
これは、血圧をしっかり下げた方が動脈硬化による合併症を減らせるというデータが積み上がってきたからです。
ただし、年齢が高い方や体力が落ちている方には“無理のない目標”を設定すように配慮されています。
治療は「数字のゲーム」ではありません。患者さんの体に合ったペースで、話し合いながら決めるのが原則です。
血圧を下げるには?
「薬に頼る前に、できることがあります」
高血圧は「生活習慣病」のひとつです。
まず取り組むのは、やはり生活習慣の見直し。
ガイドラインでも最初に推奨されているのは以下の3つ:
-
食塩制限
-
禁煙
-
節酒
これに加えて、体重のコントロールや運動も大切です。
そしてもしお薬が必要になっても、生活習慣の改善はずっと継続する価値があります。
よくある疑問②
「お酒はやっぱりダメですか?」
実は「禁酒」ではなく「節酒」が基本です。
男性ならエタノール換算で20〜30ml(日本酒1合、ビール中瓶1本相当)、
女性はその半分くらいまでが目安とされています。
ただし、「飲むと止まらない」「毎日欠かせない」という方は、やっぱり見直しが必要です。
過度の飲酒は血圧だけでなく、心臓病・脳卒中・がんのリスクも高める要因です。
食塩制限は、やっぱりカギ
日本人の高血圧の最大の敵、それが食塩の摂りすぎです。
現代日本人の平均食塩摂取量は、男性10.8g/女性9.1g(2019年調査)。
この数字、WHOが推奨する**「5g未満」の約2倍**でなんです。
日本の高血圧治療ガイドラインでも「6g未満」が目標になっています。
ただし——
伝統的な食文化や、漬物・味噌汁・保存食の多さを考えると、減塩は簡単じゃないのが現実です。
よくある疑問③
「塩分、気をつけてるつもりなんですけど…」
そう言われる方は多いです。でも意外と**“隠れ塩分”**が多いのが日本の食卓。
たとえば:
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ラーメンやうどんの汁
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漬物の小鉢
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ちょっとしたお惣菜
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ドレッシングやソース
まずは「気づく」ことが第一歩。
「麺類の汁は残す」「減塩商品を試してみる」「毎食の漬物を1日1回に」など、無理せず始めやすいところからがポイントです。
続けられる工夫、できることから少しずつ
食塩を完全に断つ必要はありません。
大切なのは、続けられるかどうか。
例えば:
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出汁を活かした薄味に慣れる
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ハーブやスパイスで風味をつける
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天然塩やミネラルを含んだ調味料を使う
-
あんかけで“舌に残る味”を活用する
ちょっとした料理の工夫でも、味の満足感は保てます。
完璧を目指すより、できることを続けていく方がずっと効果的なんです。
おわりに 〜治療の“主役”はあなたです
血圧の目標値は、医者が決めるものではありません。
患者さん自身の身体・生活・希望をふまえて、一緒に考えていくもの。
無理なく、でも確実に。
一歩ずつ、焦らず、やっていきましょう。