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2024.04.26 「生活習慣病」について
生活習慣病とは 慢性疾患としての生活習慣病 かかりつけ医として
生活習慣病とは 〜成人病から生活習慣病へ
よく耳にする「生活習慣病」という言葉。なんとなくの意味を理解するのが困難な語ではありませんが、その定義はご存知でしょうか。
かつて「成人病」と呼ばれた疾患群があります。
昭和30年代以降、結核対策が進むことで結核やその他の感染症に変わって、日本人の死亡原因の上位を脳卒中、がん、心臓病が占めるようになり、わが国の健康をめぐる施策はいわゆる「成人病」対策が中心となりました。(表1)
(表1) 年次別に見た死亡順位 | ||||
第一位 | 第二位 | 第三位 | 第四位 | |
1935年 | 全結核 | 肺炎及び気管支炎 | 胃腸炎 | 老衰 |
1947年 | 全結核 | 肺炎及び気管支炎 | 胃腸炎 | 老衰 |
1950年 | 全結核 | 脳血管疾患 | 肺炎及び気管支炎 | 悪性新生物 |
1955年 | 脳血管疾患 | 悪性新生物 | 老衰 | 全結核 |
1960年 | 脳血管疾患 | 悪性新生物 | 心疾患 | 肺炎及び気管支炎 |
その後、生活環境、生活習慣の変化や成人病対策の成果として、脳血管疾患(脳卒中)、胃がん、子宮がんなどの死亡率が減少する一方、糖尿病のように、直接の死亡率は高くなくても、他の疾患をひきおこしたり、様々な合併症のせいで生活の質が低下してしまう病気が増加するようになりました。
成人病とされる疾患群の発症や進行には個人の生活習慣が深く関与していることが明らかになるに従い、加齢という要素に着目して用いられてきた成人病を生活習慣という要素に着目してとらえなおそうという考えのもと、「生活習慣病」という概念が形作られました。
生活習慣病は、厚労省によれば「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されており、高血圧や狭心症などの循環器疾患、糖尿病、脳卒中、脂質異常、肥満、歯周病、COPD、肺がん、アルコール性肝障害など、さまざまな病気ががふくまれています。(表2)
(表2) 生活習慣病(=食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群) | |
食習慣 | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等 |
運動習慣 | インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等 |
喫煙 | 肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病等 |
飲酒 | アルコール性肝疾患等 |
慢性疾患としての生活習慣病 〜「生活の中の病気」の難しさ
生活習慣病には「慢性疾患」としての側面があります。これも難しい言葉ではありませんが、対義語である「急性疾患」と比較するとその性格がよくわかります。
始まり | 原因 | 期間 | 診断・検査 | 治癒 | |
急性疾患 | 急に | 基本的に1つ | 短期 | 確定的 | 一般的に治癒可能 |
慢性疾患 | 徐々に | 多くの原因 | 長期 | 不確定 | 治癒はまれ |
生活習慣病は、そもそもの定義からして「生活習慣がその発症、進行に関与する」ものでした。上の表にもあるように、慢性疾患としての生活習慣病は、個人の生活と不可分そして長期に、まさに「病気とともに生きる」ことを強いられると言うこともできます。生活習慣病の治療の困難さはここにあり、食習慣、運動習慣、ストレス(人間関係)、飲酒、喫煙など個人の生活を形づくる習慣そのものの変革を、しかも一時的にではなく恒久的に求められることです。
生活習慣の変革がままならない、または変革に改善がともなわない場合には投薬が必要となります。「血圧と糖尿の薬はいったん始めたらやめられへんのでしょ」と患者さんが口を揃える理由もこの生活習慣の変革の難しさからくるものと考えられます。実際には食事・運動療法で上手にコントロールができたり、投薬をやめられるケースもしばしば経験しますが、「いったん始めたら・・」が真実味を帯びるケースが多いのも事実です。
かかりつけ医として
かかりつけ医としては、慢性疾患としての生活習慣病診療の目標は治癒することではなく、合併症により生活の質を落とさないことにおいています。定義上、食習慣や運動習慣、喫煙、飲酒は生活習慣病の発症や悪化に影響する要因ではあっても、これらは個人の生活を形づくる重要な要素であることも事実です。また薬を飲みたくない、数を増やしたくないという想いも当然のことでしょう。病気の進行の抑制や合併症予防、管理については患者さん自身に頑張っていただくことが中心ではありますが、患者さんそれぞれの生活様式や考え方を尊重して、病気とともに生きる、つき合っていくということに向かい合うために、できるだけたくさんの選択肢の提供と医師としての助言をできるように努力したいと思っています。