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2025.04.03 笑うことの大切さ 〜漫才と血糖値
笑いは血糖値を下げるってホント? 〜お笑いがくれる、“もうひとつの薬”〜
糖尿病と向き合っていく中で、「食事療法」や「運動療法」、そして「薬物療法」はとても大切です。でも、もうひとつ、実は見逃せない“療養の味方”があります。
それが、「笑い」です。
「え、笑うだけで血糖値が下がるの?」と思った方もいるかもしれません。でも、ちゃんと医学的な裏付けがあるんです。
■漫才を見たら、血糖値の上がり方が緩やかに!
2003年、筑波大学のグループは、2型糖尿病患者を対象に、「笑い」と血糖値の関係を調べるおもしろい研究を行いました。(1)
その方法は非常にシンプルです。参加者に「食後に漫才を見てもらうグループ」と「まじめな講義を聞いてもらうグループ」に分かれてもらい、食後2時間後の血糖値の変化を比較する、というものです。
すると――なんと、漫才を見たグループの方が、血糖値の上昇が有意に抑えられていたのです。
この結果は、国際的な糖尿病専門誌『Diabetes Care』に掲載されました。
ちなみにこの時に協力してくれた漫才コンビは、“広島名物もみじ饅頭”のギャグで一世を風靡したB&Bだったそうです。「饅頭」とは、糖尿病の研究にはちょっと皮肉でおもしろいチョイスだったかもしれません。(若い方にはわからないかもしれませんね)
■笑うと、なぜ血糖値が抑えられるの?
研究チームは、笑いがもたらすいくつかの生理的な変化に注目し、この研究結果を評価しています。
● ストレスホルモンが減る
笑うことで、ストレス時に分泌される「コルチゾール」などのホルモンが減ると考えられています。これらは血糖値を上げる働きがあるため、減ることで血糖の急上昇を防ぐことができます。
● 自律神経のバランスが整う
大笑いすると、副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。これによって、消化や代謝がスムーズに行われるようになり、血糖の変動が穏やかになるのです。
● 軽い運動効果も
お腹を抱えて笑うとき、実は腹筋や横隔膜などの筋肉がよく動いています。こうした「微細な筋活動」が、血糖を下げるホルモン(インスリン)の効き目を助けると考えられています。
■最近は「笑いヨガ」も注目
さらに最近では、「笑いヨガ」が糖尿病の血糖コントロールに有効ではないかという研究も報告されています。
研究グループによると、12週間にわたって笑いヨガを行った2型糖尿病患者で、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が有意に改善されたという結果が出ています(2)。
■“ちょっと笑う”を、毎日の習慣に
このように、「笑い」は無料で取り入れられる、立派な“補助療法”です。
「難しいことは何もなくて、自分が楽しくて思わず笑っちゃうものでOK」です。落語や漫才はもちろん、好きなコメディ映画や、動物動画でもいい。家族とのたわいない会話でも、近所の人との笑い話でもかまいません。
「夕食のあとにお笑い番組を録画で見る」なんていうのも、まさに日常の中に“笑いのお薬”を取り入れるよい実践例かもしれません。
■まとめ:療養にこそ「楽しい」が必要です
糖尿病とのつきあいは、どうしても我慢や努力の連続になりがちです。でも、そんな毎日の中に「笑い」というエッセンスがあることで、気持ちが軽くなったり、身体の調子が良くなったりするかもしれません。
血糖値を測るだけでなく、「今日、笑ったかな?」と自分に問いかけてみるのも、健康のヒントになるかもしれませんね。
「笑う門には血糖下がる」
診察室では病気や不健康と向き合わなければなりません。それは決してハッピーな場所ではありません。それでも、当院ではできるだけ笑顔で患者さんと接することができればと日々の診療を行っています。
■参考文献・出典
- Hayashi K, et al. “Laughter lowered the increase in postprandial blood glucose.” Diabetes Care, 2003; 26(5):1651-1652.
- Hirosaki M, Ohira T, Wu Y, et al. “Laughter yoga as an enjoyable therapeutic approach for glycemic control in individuals with type 2 diabetes: A randomized controlled trial.” Frontiers in Endocrinology, 2023;14:1148468.